#018 器が醸す空気感
November 24, 2016 - Takayuki Senzaki
僕の生まれは唐津です。唐津といえば唐津焼。
同じ佐賀でも有田焼と唐津焼は全然ちがいます。有田は磁器であり、唐津は陶器。工場ラインで量産できる仕組みを作った産地と今でも作家単位の手工業の産地。有田は一見華やかで唐津は素朴。数値化できる器とできない器。白地に繊細で彩りある絵柄が描かれる有田に対し、土に墨一色の奔放な絵柄でカタチの歪みを楽しむ唐津。有田は街が小さく、窯元を中心に街が成り立っているのに対し、唐津は窯元が山間部に点在しており、街を歩いていても目にする機会が少ない。他にも挙げればキリがない両器ですが、ライフスタイルの一番近くに存在するという点においては同じです。
ライフスタイルの中心は食。その食をどう彩るかは器。自宅の食器棚には唐津焼がたくさん並んでいます。若い時は、海外の器や波佐見焼のようなデザイン性の高い器に興味がありましたが(もちろん今でも好きです)、30代中旬を超えると地味な唐津焼に心惹かれるようになりました。今では自宅の器の半分以上が唐津焼です。そうなると食卓は唐津焼を中心に他の器を合わせるようになり、食卓の景色が唐津焼中心で構成されていきます。朝晩、毎日の景色に唐津焼があります。例え粗食でも盛る器によって美食へと変ります。
街も同じです。器が醸す空気感が街に伝搬すれば街の面影が変わります。有田はまさにそんな街のひとつ。器は、個人のライフスタイルから街の空気感さえ作ることができるのです。旅先でその土地の食材や地酒を食したくなるように有田に行けば有田焼を味わい、唐津に行けば唐津焼を味わえる。これからライフスタイルや地域の構造が大きく変わっていく中で、二つの器の街がどう変わっていくのか見続けていきたいと思います。
※写真 我が家の有田と唐津の酒器 撮影/大塚紘雅