#010 印刷から息吹が伝わるか。
October 19, 2015 - Yukio Suzuta
佐賀県を代表とするやきものとして土味の魅力的な唐津焼と、白くて硬く絵付けの美しい有田焼があります。それぞれ持ち味が違うので優劣を付けられるものではありませんが、器を用いる場面や目的によって相応しいやきものがあると思います。
例えば日本酒を自宅でゆったりと飲むときは、少し歪みのあるざっくりした唐津焼のぐい呑みが酔い心地の良いような感じがします。一方、お洒落な雰囲気の食事会で少し気取って飲む時は、端正な有田焼の盃が似合います。こうした唐津焼と有田焼の特質の中で、伝統的な文様を比較してみると、力強くダイナミックな絵唐津と繊細で優美な柿右衛門様式の色絵は対照的です。どちらもやきものとしての魅力を備えています。
写真の作品は絵唐津と最も対極にある絵付けです。明治10年(1877)前後の香蘭社の製品で、江戸時代とは全く異なる意匠です。緻密な文様がびっしりと描かれ、品の良い優しい雰囲気の作品です。熟練の職人が息を詰め細い筆で一つ一つの文様を丁寧に描いた息吹が伝わってきます。同じ調子で正確に緻密に淡々と描いた絵付け師の気持ちを推し量ると職人技の凄さを感じます。
このような感慨に浸っている時に、この作品を見た人が今はプリントで簡単に出来ると言い放ちました。職人の技を否定されたような、何かとても寂しい気持ちになりましたが、スマホやパソコンの恩恵を受けながら仕事をしている自分は手仕事の幻影を追っているのかと自問しています。
※写真 色絵有職文耳付大壺のアップ(香蘭社製 1875年〜1880年代 個人蔵) 特別企画展「明治有田 超絶の美 -万国博覧会の時代」に出品中