#007 有田を知ること、伝統に溺れないこと
July 17, 2015 - Takatoshi Nakamura
私は有田の隣町、西有田町に生まれました。両親は有田の陶磁器工場に働いており、小さい頃は近所のタイル工場で遊んでいました。有田焼は日常であり生活の糧であり、特にそれ以上の印象はありませんでした。産地に住んでいる人の多くは、実はそうではないでしょうか。
印象が変わったのは大学卒業後、地元の有田工業高校に勤務してからです。こんな小さな町に伝統を受け継ぐ人や大量生産の技術を生業とする人たちがたくさんいること。すぐに絵付けの職人さんらを訪ね記録ビデオをつくりました。凄い人たちが身近にいるのを生徒に伝えたかったのです。
また、明治以降の近代産業化を引き継ぐ石膏型や転写技術、焼成法などを分かりやすく伝えることも重要だと思っています。何より、その歴史や文化遺産が現物として残っていることが有田の強みです。
ただし、その歴史や伝統や技術はアップデートしていくものであり、どこかで止まっている訳ではありません。有田焼の黎明期も産業革命期も海外からの技術導入と当時の美意識から、その時代の有田焼が生まれています。
まさに今は情報革命の時代です。
最近、有田で行っているメディア芸術のイベントは新しい今の美意識と先端テクノロジーと有田焼をマッチングできないかという試みです。そこから新しい世代の職人や作家が現れ、これまで見たことがない有田焼が生まれればと思います。
尊敬する職人の方はどんな技法も伝統工芸になるとおっしゃっていました。それは、有田に対する固定化したイメージを変えていくことも大事だということです。
有田は古くから海外との交流が盛んで劇的な変化は外からの刺激でした。創業400年を迎え、その動きは加速するでしょう。
地元にいたのに有田焼のことをほとんど知らなかった私は、子供達に有田の素晴らしさを知ってもらうことが重要だと痛感しています。その上で、変わることの大切さも伝えたいです。
有田という伝統に溺れないこと。それは有田に住んでいる私の覚悟でもあるのです。
※写真:「有田現代アートガーデンプレイス2011」 東北大震災後の9.11に石巻、NY、有田等をネットで繋いだアートイベント