#013 君だけの天目をさがして 〜若き陶芸家のEPISODE 2〜
February 16, 2016 - Shoko Ogushi
我が親戚にあたる青木家の食卓は工房へ続く教室です。幼い清晃君は綾子おばさまや敦子お姉さまのこしらえた美味しそうなご飯やおかずをゆっくり味わったことがなかったと言います。食事を盛られた器がすべて芸術品なのだから無理もありません。龍山おじさまは手作りがいかに素晴らしいかを説き、清高お兄さまは正確な職人技術の大切さを厳しく言って聞かせたのでした。
清晃少年は家を出て、音楽に打ち込む青年となり、やがて帰ることを決意しました。
基本を一通り教えたあと、清高お兄さまが最初に手ほどきしたのは、南宋時代の中国から伝わる曜変天目の基本形、スッポン口の茶碗でした。
「天目はすべてを飲み込む。黒という無の宝石」と清晃君は思いました。漆黒に美しい色を浮かび上がらせる釉薬の配合と、ろくろの手技が織りなす、強さと優美さ。天目の器は割れやすく、極めて難しい技法といわれています。
2015年、清高お兄さまが突然この世を去りました。龍山おじさまにつづいて2人の師を失った工房で、清晃君には悲しむ暇などありませんでした。この先はたった一人の戦いです。外への弟子入りをすすめる人もいらしたそうですが、名だたる陶芸の先人たちは「自分を信じて、青木窯のやり方でやるべきだ」と助言してくれたそうです。
年2回の火入れは、3か月に1回のハイペースになりました。残されたノートを元に天目の研究に明け暮れる一方、負けず嫌いで、確実なレシピでも一から自分の目で確かめないと気が済まない研究者気質の清晃君には、時間はどれほどあっても足りません。師のいない工房では、作品への甘えは最大の敵。清晃君は「はじめたばかりの頃にはこの厳しさはなかったですけどね」と言いながら、人一倍ハンマーをふるっています(ああ、もったいない!)
創業400年を迎える有田について、「あくまで401年目への準備であり、創業800年までの通過点にすぎない」と淡々とした清晃君。
釉薬の配合に虚心坦懐に挑んでも失敗はつづきます。でも、失敗こそが、「成功へまた一つ近づけた」という大きな確信につながることもあるのだと。
天国の2人の師に胸を張れるその日まで、自分だけの色を探しつづける。そんな君の第2章。