#002 有田焼とキッコーマンの醤油差し
May 08, 2015 - Takaharu Hamano
母の生家は、陶器店を営んでいます。幼少期をそこで過ごし、有田焼も馴染み深い存在でした。店主である祖父や叔父と来客との陶磁器にまつわる会話を聞くのが、子供ながらに楽しかったものです。
そんな中、「醤油差し」の話をよく耳にしました。食卓に置かれ、日々の暮らしに欠かせない道具ですが、醤油のような粘性の高い液体の注器で特に課題となるのが「液垂れ」。きれいに差し切り、後引きして周りを汚すことのない注器は、注ぎ口の形状と加工処理がとても重要になります。
叔父が奨めたのは、いつも有田焼や肥前の磁器でした。磁器の特性と職人の経験・伝統に裏付けられた高い技術があるからこそだと、自ら試し満足できないものは売らない叔父の眼鏡にかなったがゆえ。
そんな叔父が同じくキレの良さを褒めたのが、キッコーマンの醤油卓上びん。カーブを描く透明なガラス瓶に赤いキャップの注ぎ口というアイコンと化したデザイン。叔父はあの注ぎ口の開発にはかなり尽力したはずだと推測し、そしてそれは後に正しかったことを知ります。この醤油びんをデザインしたのは、今年2月に他界された故榮久庵憲司氏と彼が率いたGKデザイン。注ぎ口の形状だけでも100通り以上の試行錯誤を繰り返してキレの良さにこだわったそう。初めて世に出たのは1961年ですから、すでに50余年も経つロングセラーになり、これまでに世界100ヵ国、累計4億本以上のセールスを記録しています。
私も工業デザインを志し、期せずしてGKデザインに入社、デザイナーとなりました。そして、これまでのものづくりの経験から、有田焼の産地支援に招かれました。「醤油差し」が導いてくれたような、なんとも濃口の縁を感じます。
※撮影協力:KIHARA