有田焼創業400年事業 - 佐賀県が取り組む17のプロジェクト - ARITA EPISODE2 - 400 YEARS OF PORCELAIN. NEW BEGINNING. -
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2016/ project report 5

オランダの陶磁器研究機関「EKWC」を視察して思う。プラットフォーム形成プロジェクトのこれから

オランダの陶磁器研究機関「EKWC(ヨーロピアンセラミック・ワークセンター)」と研究交流を行う佐賀県窯業技術センターは、2016年4月19日、オランダ・ブラバント州にある現地を訪ね、アーティスト・イン・レジデンスを軸に活動するEKWCの施設を視察した。外部クリエイターを受け入れ、産地に新たな風を吹き込む、これからの有田に求められるプラットフォーム事業のあり方とは?

December 29, 2016
文: 浜野 百合子

EKWCによるアーティスト・イン・レジデンスの手法

2013年11月、佐賀県が在日本オランダ王国大使館との間で締結した「クリエイティブ産業の交流に関する協定」に基づき、2014年10月、オランダの陶磁器研究機関「EKWC」と研究交流に関する覚書を締結した佐賀県窯業技術センターは、2016年4月19日、数名の研究員を現地へ派遣し、県庁職員らとともに本格的な視察を行った。

EKWCは、滞在型の創作活動を受け入れるアーティスト・イン・レジデンスを軸に、陶磁器の技術的・芸術的な可能性を探る国際的なワークセンターだ。

オランダ・ブラバント州の小さな町にあるEKWCの施設は、皮革工場の跡地をリノベーションした広大な敷地内にあり、24時間いつでも作業可能な専門的設備と独立したスタジオ、滞在時に利用できるゲストハウス、オフィスなどを完備している。

アーティスト・イン・レジデンスに参加するためには審査があり、毎年数百人の応募があるという。年間約45のアーティストが審査を通過し、3カ月間滞在して作品を作るのだが、旅行費、滞在費、施設利用費などは参加者の自己負担だ。

かわりにEKWCは、個人ではなかなか持つことのできない焼成窯や加工機など専門的な設備をいつでも自由に使える作業エリア、各自のスタジオ、専門職員による技術的サポートなど、ものづくりに適した環境を提供する。

新たな価値観で陶磁器の技術的・芸術的な可能性を探る

EKWC会長のランティ・チャン氏直々の案内で施設内を巡り、さまざまな質疑応答がかわされる中、この事業を発案したきっかけに質問が及ぶと、「アーティストはマイノリティなので、発表したり発言できる場を作ってあげる必要を感じた」と想いを語った。

アーティストに場を提供し、刺激的な発想のものづくりをサポートすることが、陶磁器の技術的・芸術的な可能性を探る研究にも繋がるという仕組みが、EKWCではうまく構築されているのだ。

参加者の年齢層も25〜65歳と幅広く、75%以上が陶磁器を専門としないクリエイターだというのも興味深い。業界の固定観念にとらわれない新たな価値観を求めるEKWCらしい意図的な選考なのだろう。

参加者の選定は5人の専門家で構成されるボードメンバーによる審査会で行われるが、「実現可能な提案よりもチャレンジングなアイデアが選考に通りやすいですね」というチャン会長の話がその選考基準を物語る。

視察時にも、自分で持ち込んだ車の各パーツを分解し、3Dで読み取ったデータで陶磁器製の車を作るクリエイターや、陶磁器を焼いて窯を開けたときに温度差で生じる不確定なクラック音を作品として仕上げるアーティストなど、新しい発想から生まれるクリエイティブなものづくりが進行していた。

有田焼の産地にクリエイターが集う仕組みを作る

視察を終えた佐賀県窯業技術センター 陶磁器部 デザイン担当係長の副島 潔氏は、「ひとりひとりに充実したスペースと、専門技術のサポート体制が整っているし、工場跡をリノベーションした空間にもモチベーションが上がります。クリエイティブな作品が生まれやすい環境づくりに刺激を受けました」と話す。

「ひとりの世界」「皆との世界」「食事を共にすること」。

チャン会長が、EKWCのアーティスト・イン・レジデンスで大切にしている3つのこだわりは、その施設や環境にしっかりと具現化されていた。

独立したスタジオを完備して、ひとりでものづくりに没頭できるクローズドな環境、アーティスト同士がお互いに作業したり作品を見ることができるオープンな環境の両方が整えられているほか、滞在するゲストハウスでは持ち回りの食事当番があり、食事を共にする仕組みができている。

有田焼創業400年事業の中にも、ものづくりのプラットフォーム形成を目指すプロジェクト(2016/ project)があり、16組の外部デザイナーとともに商品開発を経験してきた。食事を共にする大切さも、このプロジェクトを通して何度も語られ実感したことだ。

2016年6月には、オランダのクリエイティブ・インダストリーファンド(デザイナー育成基金)及びモンドリアンファンド(アーティスト育成基金)からそれぞれ支援を受けたデザイナー及びアーティストが有田に来訪し、8月末までの3ヶ月をかけて、窯元や窯業技術センターで技術指導を受けながら作品制作に取り組んだ。9月から11月まで滞在した第2期の2名を加え、トライアルながら今年度は計4名のクリエイター・イン・レジデンスを実現している。いずれも日本の文化や、有田でのものづくりにインスパイアされた作品を制作し、産地に新たな風を呼び込んだ。

クリエイティブなプラットフォームを築いていくために、どんなクリエイターを選び、どんな受け入れ方でどんな活動をすればいいのか、どんな施設が必要なのか。

2016/ projectで世界のクリエイターたちと恊働した経験を生かし、今後も外部のデザイナーやアーティストを受け入れながら、問題点・改善点を見極め、ノウハウを蓄積する中に、有田ならではのものづくりのプラットフォームのあり方が見えてくるのではないか。プラットフォーム形成プロジェクトは、新たな一歩を踏み出したばかりだ。

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