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当代随一の器と佐賀の食を愛でる「USEUM ARITA」
佐賀が誇る人間国宝と三右衛門の器。この名工の展覧会に合わせ、名工の作を佐賀の食と合わせて堪能する期間限定の試みが、九州陶磁文化館で始まった。「実際に手に取って使う」陶磁器の楽しさ、とは。
佐賀を代表する名工たちの随一の器
日本の陶磁器の「やきもの」は、単に飾り置いて鑑賞するだけではなく、手に取り用いながら賞玩することで発展した。なかでも佐賀は、4 世紀にわたる長い歴史と伝統から名工や名窯を擁してきた、やきものの「トップランナー」となる名工が、当代随一の器を生みだしてきた場所だ。この佐賀の名工たちの特別企画展「人間国宝と三右衛門」と、食とともに名工の器を手に取り堪能する「USEUM ARITA(ユージアムアリタ)」が2016 年8月11日、九州陶磁文化館で始まった。
今回紹介される名工とは、人間国宝(重要無形文化財保持者)として評価される、卓越したろくろの技の「白磁」を極めた有田の井上萬二氏。古来より「雨過天青」と称される「青瓷(青磁)」を追求した武雄の中島宏氏。そしてその歴史の重さから佐賀の「三右衛門」と称される、貴人の食卓を彩った「鍋島」の御用赤絵師として一子相伝で技を伝えてきた人間国宝でもある今泉今右衛門氏。1647(正保4)年に日本で初めて赤絵の器を創り出した酒井田柿右衛門氏。御用窯・御茶盌窯(おちゃわんがま)として古唐津からの系譜を守る中里太郎右衛門氏。いずれも佐賀のみならず日本を代表する陶工と言っても過言ではない。
食に用いて陶磁器を「愛でる」こころみ
会場の九州陶磁文化館。まず、本館の展示室で開催されている「人間国宝と三右衛門」では、明治から近代の作品104点が並ぶ。大技の花器や壺、大皿に茶の湯の水指や茶わんまで、佐賀の地で生まれた各代の名工の手による傑作ばかりだ。ガラス越しに見る作品の数々を眺めていると、この名工たちの器を手に取る喜びはいかばかりかと胸が膨らむ。名工の作品を眼前で鑑賞した後は、アプローチデッキに仮設された体験型施設「USEUM ARITA(ユージアム アリタ)」へ。農業用のガラス温室を利用活用した仮設の建築は、農業が盛んな食の産地としての佐賀を印象づけるアイデア。内部は飲食スペースと展示スペースが広がっている。展示スペースは「灯す」「生ける」「設える」「遊ぶ」「贈る」といった、“使う=USE”をテーマに沿って、有田焼創業400年事業の17のプロジェクトで誕生した器の数々が並び、天窓や遮光カーテンから差し込む光が器にきらめきを添えている。
そして飲食スペースで饗される、名工の器と佐賀の食の饗宴へ―。
料理は和食の「朝御膳」と和食・洋風の「昼御膳」、コーヒーや紅茶を有田焼で、抹茶やカプチーノを唐津焼で喫する「カフェタイム」の3つの趣向。朝御膳と昼御膳は、井上萬二窯・弓野窯(中島宏 氏)・今右衛門窯・柿右衛門窯・太郎右衛門窯の器のセットに、佐賀で採れた海山の食材を佐賀の和洋の料理人が手掛けた料理が並ぶ。佐賀の器を鑑賞≒目で見て楽しむ「MUSEUM」の要素に、実際に器を「USE=使う」ことを加えた体験型施設だ。オープン初日には全国から130人が訪れるという好評ぶりで、今後はミシュランで星を獲得したシェフ等を招き、特別なディナーイベントも開催される。
特別企画展「人間国宝と三右衛門」は9月25日まで、「USEUM ARITA」は11月27日まで開催される。
オープニングセレモニーが行われた2016年8月10日。山口祥義知事は「佐賀の誇りである陶芸家と400年を経た有田に居る喜び。器のすばらしさを子や孫に伝えていきたい」と述べた。食事や喫茶、花をいける、といった「用いる」ことから生まれる感動は、過去も現在もそしてこれからも、人が器を作り始めた原初からの幸せではないだろうか。そして豊かさを感じていただくための器づくりを、これからも有田そして佐賀が担っていくことを願う。