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有田焼の新ブランド「2016/ 」世界デビュー。困難を乗り越え生まれた自信と意識の変化。
世界中からデザイン関係者が集まるミラノデザインウィーク期間中、ミラノ市街地の会場で、2016/ projectから誕生した新ブランド「2016/ 」の世界初のお披露目が行われた。 参加デザイナーや窯元・商社など関係者一同が集まったエキシビションの様子と、イタリアからオランダへと移動し、アムステルダム国立美術館でスタートした2016/ の展覧会および、ARITA HOUSE AMSTERDAMの情報を紹介する。
2016/ projectから誕生した有田焼の新ブランド「2016/ 」を発表
世界各国から16組のデザイナーが参加し、約2年半にわたる開発期間をかけて進めてきた「2016/ project」。2016年4月12日~17日までイタリア・ミラノで展示会が行われ、有田焼の新ブランド「2016/ 」が世界デビューした。
ミラノ市内の中心地にある会場 BRERA SITE には、全16組のデザイナーによる15のスタンダードコレクションと2つのエディション、総作品数300点以上が並び、連日たくさんの来場者でにぎわった。
参加デザイナーも一同に集まった初日のプレス・カンファレンスで、クリエイティブ・ディレクターのひとりであるステファン・ショルテン氏は、「有田の職人たちや関係者が辛抱強く対応してくれたおかげ。チームとしての協力があればこそ実現したプロジェクトだ」と喜びを語った。
共にディレクターを務める柳原照弘氏は、「単にデザインしたものを商品化するだけなく、地域の再生を担う大事なプロジェクトとして、どれだけ皆と心を通わせられるかを大切にしてきました。今回300以上のプロダクトを発表していますが、それ以上の人々が関わってできたプロダクトだということを知ってほしい」と、産地との恊働、佐賀県やオランダの事業面でのサポートなど、多くの思いが結実したプロジェクトであることを伝え、「ここに有田の今が全て詰まっています。単なるデザインとしてではなく、次の100年に向けたARITAを皆で感じることができたら」と締めくくった。
会場でのプレビューのあとは、地下1階に特別に設けたオープンキッチンで、日本から招いたシェフ・船越雅代氏による料理を来場者とともに楽しんだ。4月13日、14日には、プレス関係者やデザイナーのほか、お世話になった方々を招いての食事会を開催。
プロジェクトを進める上で、食を共にすることがいかに大切かを学んだ2016/ projectならではの振る舞いだ。連日ここで、商談やデザイナーとの最終的な打ち合わせなどが活発に行われていた。
15のスタンダードコレクションと2つのエディションに込められた職人技とストーリー
2016/ は、有田の職人の高度な技術と16組のデザイナーの才能が集結した、新しい磁器のコレクションだ。
ショルテン&バーイングスは、有田焼が培ってきた400年に及ぶ歴史的なモチーフや技術を研究し、27種類のプレートからなるエディションを考案。最新の製造プロセスと、熟練の職人技の融合による渾身のコレクションは、伝統的な有田焼が、いかにコンテンポラリーデザインに豊富なインスピレーションを与えるかを証明してみせた。
柳原氏の多孔質な磁器素材を駆使したエディションは、佐賀県窯業技術センターのバックアップによる高度な技術開発なしには実現しえなかった形状だ。素材や製造方法を探求することにより、新たな有田焼の可能性を見いだすきっかけとなることだろう。
注目を集めたのはエディションだけではない。
15のスタンダードコレクションにもそれぞれ、デザイナーの要望に真摯に向き合い、職人たちがチャレンジを続けた特筆すべきストーリーが詰まっている。
妥協のないものづくりで、美しさとクオリティを追求したインゲヤード・ローマン。多孔質セラミックや耐熱性のある陶土など特別な素材に取り組んだビッグ・ゲーム。日本とオランダの歴史をひもとき、背景やプロセスにこだわったクリスチャン・メンデルツマ。廃棄物が生み出す数百の色サンプルを検証したカースティ・ヴァン・ノート。紙を折り重ねたような繊細な美しさを追い求めたクリスチャン・ハース。最後まで細かな調整を行い打ち合わせを重ねたステファン・ディーツ。ジュエリーの提案で有田焼の新たな魅力をみせたサスキア・ディーツ。平滑、垂直と正確な焼成技術と向き合ったトマス・アロンソ。器を持つ日本の食文化から触りたくなるフォルムにこだわったレオン・ランスマイヤー。伝統的な日本の食器の形やカラーにインスピレーションをうけたポーリーン・デルトゥア。歴史に裏付けされた職人技と有田を代表する瑠璃色をリスペクトしたスタジオ・ウィキ・ソマーズ。エッジの効いた形状に卓越した吹き付けの職人技を存分に生かしたクーン・カプート。大人も子供も使える食器を意識したTAF。色と質感にこだわり道具としての設えを追求した藤城成貴。あえて不完全な釉薬の仕上がりを求めた柳原照弘。
日本と海外という物理的な距離の障害はもちろん、交わす言葉もままならず、最初は意思疎通すらうまくとれなかった産地の人々とデザイナーたち。細かな寸法を求めてくるデザイナー、イメージで伝えるデザイナー、ものづくりに対する取り組み方やアプローチもさまざまだ。
さらに、量産を見据え、採算を考慮し、プロダクトとして成立させるという、エディションとは異なる難しさがあるのもスタンダードコレクションだ。
しかし困難を乗り越え、ひとつのものづくりを実現させるため一緒に取り組んできた2年半の経験が、産地の人々に自信と強さを与えたことを、その誇らしさに満ちた笑顔が物語っている。久しぶりに再会したデザイナーらと肩を抱き合い、喜びを分かち合う姿が印象的だった。
ノウハウを共有することで得た技術力の向上、考え方の変化
分業制で成り立つ有田焼の産地では、その特性上、横のつながりが希薄であり、製造に関してはもちろん販売に関しても連携することはあまりないと言われている。
今回のプロジェクトは、そうした産地のあり方に一石を投じたものでもある。
プロジェクトでは個別にデザイナーと商品開発をしつつも、お互いの進捗を報告し合い、共通の目的意識をもって進めることを心がけた。すると自社で解決できないことも他の窯元の知識やノウハウを共有するようになり、結果として完成度の高いものづくりに結びつくことを実感したという。これらの体験は、産地全体の技術の向上、企業間の関係性や考え方にも影響を与えるに違いない。
2016年度で有田焼創業400年事業としての県のプロジェクトは終了となるが、ここで生まれた思考の種を埋もれさせることなく、継続して進化し続ける中に、これからのARITAの進むべき道があるのではないか。
2016/ projectは、参加商社や窯元が協力して新会社「2016株式会社(ニーゼロイチロク株式会社)」を設立。世界に向けて流通し、有田焼の技術を打ち出す活動を続けて行くことを決めた。
アムステルダム国立美術館での展示とARITA HOUSE
佐賀県とオランダ王国大使館が「クリエイティブ産業の交流に関する協定」を締結したのが2013年11月。
以来、2016/ projectにも大きく関わってきたオランダとの交流の一環として、アムステルダム国立美術館(Rijksmuseum)にて、2016年4月22日から10月9日まで企画展「Arita Porcelain Today」がスタートした。現代の商品である2016/ を、歴史ある美術館所蔵のコレクションと対比した構成で展示してあることが非常に興味深い。https://www.rijksmuseum.nl/en/arita
同展示室では十五代酒井田柿右衛門が今回のために特別に創り、寄贈した作品を、17世紀の柿右衛門作品とともに展示する「酒井田柿右衛門展」も同時開催中だ。
さらに2016年5月14日、アムステルダム国立美術館のすぐ近くに、歴史的建造物をリノベーションした「ARITA HOUSE AMSTERDAM」がオープン。日本とオランダ文化の架け橋となることを目指し、2016/ のコレクションを展示するほか、販売、レクチャー、ワークショップの開催も予定している。
佐賀県・有田の地で、磁器が誕生したのが1616年。歴史の繁栄の中で常に新たな表現をもとめ革新を続けてきた有田焼の400年という節目の年に生まれた2016/ が、再び日本とオランダを結び、世界へ発信する未来のARITAへのきっかけとなるようこれからも見守っていきたい。