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伝統工芸の再興へ。「産地間コラボ事業」のつながりと拡がり。
一昨年の「第31回伝統的工芸品月間国民会議全国大会(佐賀大会)」を契機に始まった産地間コラボ事業も今年が集大成。人とモノの交流から見出されつつある、伊万里・有田焼、佐賀から日本全国へ、そして世界に発信する伝統工芸の可能性とは。
8つの伝統的工芸品とコラボレーションした「伊万里・有田焼」
「過去のものといえども、真に価値あるものは、常に新しさを含んでいる―」。
日本各地の陶磁器や染織、漆器、木竹工といったさまざまな民衆的工芸品から「美」を見出し、民芸(工芸)運動を興した柳宗義は、工芸の可能性をかく提唱した。日本の工芸品には見る者を惹きつける奥深さとぬくもりがあり、いつの世にも衰えない可能性を秘めている。平成26(2014)年11月に佐賀県で開催された「第31回伝統的工芸品月間国民会議全国大会(佐賀大会)」で始まった、伊万里・有田焼産地と全国の伝統的工芸品産地による「産地間コラボ事業」は、伝統工芸の再評価と産地の再生を持続的かつ全国的に拡大させようという期待を込めた、佐賀から発信する現代の「工芸」運動(プロジェクト)だ。
一昨年の佐賀大会に引き続き、昨年11月に富山県で開催された「第32回伝統的工芸品月間国民会議全国大会(富山大会)」では、「産地間コラボ事業」の成果として、鹿児島県の本場大島紬、東京都の江戸切子、福井県の越前和紙、沖縄県の琉球絣(かすり)、石川県の輪島塗、奈良県の高山茶筌(ちゃせん)、富山県の井波彫刻、和歌山県の紀州漆器の8産地と「伊万里・有田焼」がコラボレートした作品が発表された。それぞれの作品は、各々の工芸品を組み合せる、意匠をうつわに反映させる、うつわの発想から脱却しインテリア化する、といった多岐にわたるもので、作り手(伝統工芸士)をはじめ全国の伝統的工芸品の産地からも注目を集めている。
「異素材との組み合わせ」に試行錯誤する作り手
これら8産地との作品ができあがるまでの2年間、それぞれの作り手たちは幾多の試行錯誤を繰り返しただろうか―。試みはまずそれぞれの作り手が互いの産地を訪問し、互いの技やノウハウを「知る」ことから始まった。産地に行って初めて知る現状、後継者不足という先行き不安のなか、歴史を受け継いできた「技」と、その技術を守り続ける職人たちの「意志」に触れること。それは作り手自らの環境を見つめ直す機会でもあり、布やガラス、金属や漆、といった異素材との格闘の始まりでもあった。「越前和紙は光の拡散が美しい」「絣のシンプルな意匠を染付に」「江戸切子の意匠〈七宝〉は鍋島焼にあるが〈麻の葉〉はない」といった製作のアイデアもまとまる。また「焼き物(うつわ)だけやっていても分からない技術の発見」もあり、商品を使った「茶会(ムーブメント)への展望」も膨らむ。さらに作品のブラッシュアップでは、インダストリアルにとどまらずグラフィックや販促デザイナーも参加。「ある程度売っていくことを考えると、個人としての〈作品〉の生産と、工房としての〈ロット〉の問題も生じる」などの課題解決にも大きな役割を果たし、「食器に漆器を用いない海外での販売に挑む」といったコンセプトも商品に反映される。
完成形の商品発表は9月。ブラッシュアップも最終局面へ
この産地間コラボ事業のコーディネートを務めるメイド・イン・ジャパン・プロジェクトの代表・赤瀬浩成氏は「有田とコラボレートしてくれた産地は、そもそも〈有田とならやりたい〉という強い意志があった。1年目では作り手が産地に出向きプロトタイプを作り、作り手が悩んだ結果、2年目ではデザイナーが出向き問題を解決してくれた。そして出来上がった商品は販売もしてくれる、という感謝の気持ちも強い。今年は事業も最終章、私も徹底して有田に注力する」という。8産地との作品についてはそれぞれブラッシュアップの進捗に前後のあるものの、完成形の商品が発表されるは9月。伊万里・有田産地発の伝統的工芸品の新たな可能性が見出される日も近い。