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ARITAの進むべき道が見えてくる。どのような種を蒔けるかがカギ。
欧州における有田焼のリブランディングと販路開拓を目指す海外展開の一環として、フランス・パリで日本の伝統美を紹介しているギャラリー「NAKANIWA」での展示販売を中心に、有田焼のマーケティングリサーチを行うプロジェクト「SEEDS of ARITA」が目下進行中である。
舞台は芸術と文化の一大中心地サンジェルマン
現地時間2014年11月27日。フランス・パリにおける文化・芸術・知性の中心地と言われる「サンジェルマン地区」を舞台に、日本の伝統美を紹介するギャラリー「NAKANIWA」において、4つのテーマで展示販売やマーケティングリサーチを行うプロジェクト「SEEDS of ARITA」がスタートした。参画した窯元は8社。各社がつくった「モノ」がパリでどのように評価され、受け入れられるのか、それがどんな答えであるにせよ、真っ向からリサーチ結果を受け止める覚悟で臨んだのだった。それがこれからのARITAに繋がっていくことを信じて。
発信、マーケティングを一手に担う「NAKANIWA」は、どのような場所に位置するのか。パリのサンジェルマンとは、日本で例えるなら、東京の青山のようなイメージで、ギャラリーやアンティークショップなどが軒を連ね、文化や芸術の先進地といえる場所である。ショップが多い青山に比べて、ショップと住居が同居している街という。フランス人にとっても本当のパリが息づく街として認識されている。NAKANIWAは、セーヌ川を挟んだルーブル美術館の対岸近くにあり、石造りの外壁の門をくぐると、その名の通り、大きな枇杷の木が茂る中庭を囲んだ建物の中にショールームを持つ。このようなエリアと空間でプロジェクトは動き出したのだ。
パリの人々は何に惹かれ、何を基準に価値判断するのか
本プロジェクトは、有田焼を、酒器や花器など3~4つのテーマに絞り一定期間展示・販売を行い、パリの人々が何に惹かれ、何を基準に価値を判断し、購買というアクションを起こすのか、現地NAKANIWAのスタッフが実際に深い理解を持って商品に接してもらえるように、商品を生み出した技術の魅力や歴史的背景なども交え、来訪者との対話を通してマーケティングリサーチを行うものである。現地パリで陣頭指揮を執るのは、「SEEDS of ARITA」ディレクター、NAKANIWAを展開する株式会社丸若屋 代表取締役の丸若裕俊氏である。ます1回目のリサーチとして設定されたテーマは「酒器」。2014年11月から翌年2月までの4か月間、ARITAの酒器を伝え、直接的なお客様の反応や実際に使用した後の評価など、限られた期間で行う展示会では得られない貴重なマーケティングデータを収集し、その結果を反映して、2回目のテーマである「花器」のリサーチが、今年5月から始まり、現在様々な情報を収集中である。
「酒器」オープニング初日には、120人程度の来店があり、翌日には、フランスにあるシャンパーニュメーカーのひとつ「Krug」のメンバーが来店し、ARITAの酒器で日本酒のテイスティングを行い、器によって味が異なることへのポジティブな反応が得られ、新たなプロジェクトへの可能性も生まれた。様々な来店者がARITAに触れ、感じたことを「情報」という財産で残してくれた。出品されていた卵の殻のような薄さが特徴の酒器については、「温度を直接手に感じることができる」というところが印象深かったという。文化の中に、ワインを直接肌で感じないよう、足のあるグラスで飲用しているので、こうした発見が得られたのだろう。
NAKANIWAからのフィードバックに刺激をうける参加8社
NAKANIWAでのマーケティング結果は、参加した8社に詳細なリサーチレポートが配された。世界基準を知る人と一緒にやってみたかった、海外での感覚のズレを認識するため、自社の商品がフランスで通用するのかどうか、など参画したきっかけや目的はそれぞれ。そして、結果を受けて、進行中の花器、そして第3回、4回に向けて、フィードバックを参考に今後の展開を検討しいていきたいと意欲に燃えていた:。丸若氏は言う。「展開の基準として、『道具』としてのものなのか、『文化』としてのものなのか、チャンネルが違うと発信する内容も変わってくることを再認識しなければならない」と。
「SEEDS of ARITA」で見えてきたこと
丸若氏は、これまでのマーケティングとその検証で見えてきたことが3点あると話す。一つは商品開発のプロセスの見直し、二つ目は価格のつけ方、そして三つ目は海外でのコミュニケーションだ。「いったん、400年の歴史を持つARITAの枠を外してほしい。歴史のあるものは、無意識的に品格を兼ね備えている。そこに伝統工芸の重みをプラスしても、フランスの人にとっては、TOO MUCHの印象を与えかねない。今回、日本とフランスの感覚の「ズレ」というのが少し見えてきたのではないか。価格の設定においても、買いに至る適正価格というものを掴む必要がある。金額とは別に物に対する価値観があるので、そこも理解する必要があるだろう。言語においては、必ずしも自身が現地語を話せるようにならなくてもいい。使い方や表現を間違えてしまうことがある。特にフランス語は難しい。きちんと話せる人と共にコミュニケーションを図っていったらいい」と、丸若氏は締めくくった。今後の予定は、9月から「テーブルウェア」をテーマに第3回が展開される予定である。