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全国の伝統的工芸品産地との出会い。「産地間コラボ事業」がもたらす新たな革新と創造。
「第31回伝統的工芸品月間国民会議全国大会(佐賀大会)」が2014年11月21日~24日に開催された。大会初の試みとして、有田焼産地と全国の伝統的工芸工芸品産地とのコラボレーション「産地間コラボ事業」が行われた。その内容と成果をレポートする。
有田・伊万里を中心に開催された伝統的工芸品月間国民会議全国大会
伝統的工芸品に対する国民の理解と普及を目指し、昭和59年から毎年11月を伝統的工芸品月間と定め、全国各地において普及啓発事業が実施されている。その中心的な催事である「伝統的工芸品月間国民会議全国大会」が、経済産業省等の主催により2014年11月21日~24日、佐賀県にて開催された。県では「有田焼創業400年」のプレ事業と位置づけ、同事業の「焼き物文化の発信」という観点から、有田・伊万里地区を中心に複数の会場を設け、様々な作品展示や販売、製作実演・体験イベント、ジンポジウムなどが催された。
その中、本大会初の試みとして、有田焼産地と全国の伝統的工芸品産地によるコラボレーション「産地間コラボ事業」が行われ、会期中各会場ではその成果が発表された。「出会いから新たな革新、創造へ」をコンセプトに、産地間コラボによる「ものづくり」「人的交流」を通して、伝統工芸の可能性を探った。
輪島塗とのコラボで生まれた「有輪」
日本を代表する漆器のひとつ、輪島塗。
その滑らかな輪島塗の表面に有田焼の絵付けの技法で描かれた「麻の葉くずし」。有田と輪島から一文字とって「有輪(YOUWA)」と名付けられたこの作品は、「産地間コラボ・ものづくり事業」に参加した輪島塗と有田焼の伝統工芸士によって生み出されたものだ。格調高く洗練されたフォルムからは芸術性が漂うが、料理の魅力を引き立てる「脇」としての役割もこなす、まさに伝統工芸の魅力を存分に発揮する逸品だ。
輪島塗の桐本泰一氏の考案したフォルムに絵付けをした有田焼の伝統工芸士、橋口博之氏は言う。
「一流の職人の技で生み出されたこのフォルムにどんな絵を載せるか、思いをめぐらせているうちに閃いたのがこの麻の葉くずしでした。絵の具を吸わない漆の輪島塗に描くのは、焼き物に呉須で描くのとはまったく違い、味わったことのない難しさを感じましたが、同時に他産地の技術や技法に触れることで、まったく新しいものづくりができるのではないかとワクワクしています」
橋口氏らは、次の作品として有田の焼き物に輪島塗の絵を描く構想をもっているという。
蒔絵のような立体感のある表現が実現すれば、かつてないドラマチックな焼き物が誕生する。
「つながって終わりではなく、人が出会い磨きあって共に成長していくきっかけになるような産地間のつながりを作っていけたらと思います。伝統工芸の産地はどこも厳しい状況にありますが、他産地との交流で刺激を受け、誰もやっていないことにチャレンジしていくことで、オンリーワンの価値を生み出すことができると感じています」(橋口氏)
木地と磁器のろくろコラボで生まれた「Material to co-star~素材協演」
同じ漆器でも轆轤(ろくろ)を使った挽物木地に特徴がある山中漆器。その轆轤職人である中嶋武仁氏と、有田焼の轆轤師、白須美紀子氏のコラボで生まれたのが、「Material to co-star~素材協演」だ。余計なものを一切加えず、木材と磁器がもつ風合いを活かしたその作品は、無垢な赤ん坊のようにどこまでも澄み切っている。
轆轤職人同士でものづくりをすることについて「地元の九谷焼とのコラボ、湯呑みと茶托のようなコラボはよくありますが、それとは違うやり方があるんじゃないかと思い参加しました」と中嶋氏。しかし、実際にやってみると「色々と問題が出てきて完成品に至るものは少数でした」という。反面、「素材の組み合わせ方で作品のバリエーションが増えることがわかり、次に繋がるきっかけになりました」と新たなものづくりへの手応えを語る。
「職人は工房に篭りがちで、他の職人との交流も少ないので、自らの仕事を違った角度から見る他産地とのコラボは職人が主体的に動くきっかけになると感じました。産地や素材は違えど職人としての志は同じ。お互いによい刺激になりました」(中嶋氏)
有田のまち全体がギャラリーになるオープンファクトリー
産地間コラボ事業のもうひとつの柱は、次世代の有田焼産地を担う若手職人と他県の伝統工芸関係者との交流による「人的交流事業」だ。他県の産地に行き、また他県の伝統工芸関係者を自らの工房に迎え入れて交流するプログラムとなっている。参加メンバーの一人、福珠窯の福田雄介氏は、他産地から指摘された「有田ってもったいない」が胸に突き刺さったという
福田氏は東京・新宿区の神田川沿いにある江戸小紋の産地を訪れた。
「伝統工芸の産地はどこも絶好調というわけではないですが、厳しい中でも新しい取り組みに挑んでいます。江戸小紋の双葉苑さんはとりわけ先駆的で、染物体験教室を開いたり街全体をギャラリー化するイベントを開催したり、革新的なことに取り組んでいます。有田には歴史を学ぶ場所はあるのですが、体験して楽しむ場所が少ないのが残念だと感じました」(福田氏)
また、富山県の高岡伝統産業青年会のメンバーと交流した吉右エ門製陶所の原田吉泰氏は、「日本各地にいる同世代の伝統工芸を継承する仲間たちとの出会いが大きな励みになりました」と喜びを語った。「1日で12軒の工場をたずね、たくさんの方々のものづくりへの姿勢や様々な表現に触れることができ、多くの気づきを得ました」と原田氏。高岡伝統産業青年会には、金属と木工(漆)の両方のメンバーが参加しており、窯元にあたる「鋳造所」だけでなく個々の職人も参加しているので、多様なメンバーが集まって闊達に意見を交わし活気あふれる雰囲気だという。
福田氏は「毎年たくさんの人が訪れる陶器市のときにも販売するだけでなく、訪れる人に参加型のメニューを提供したいですね。工房を見てもらうオープンファクトリーや工房体験に可能性を感じます」と思いを語る。原田氏も、高岡の工場をめぐる「クラフツーリズモ」を体験して、「お客様にありのままの現場を見てもらったほうが伝統工芸の価値をわかってもらえるし、こちらもお客さまの声から学ぶことも多く、それがいいものづくりにつながる」と確信したという。
産地間コラボを突破口に、有田から日本の新しい伝統産業を生み出したい
ものづくりと人的交流、これら2つからなる「産地間コラボ事業」のコーディネーターをつとめたのは、伝統的工芸品のマーケティングやプロデュースを手がけるメイド・イン・ジャパン・プロジェクトの代表、赤瀬浩成氏だ。赤瀬氏は、産地に外部の専門家が入って変えようとする取り組みに限界を感じていたという。そこで、他産地から学べとばかりに日本各地にある伝統的工芸品産地とのコラボを、今大会を主催する佐賀県に提案した。どれくらいの他産地の方が応募してくれるか未知数だったが、ふたを開けてみると、「有田とならやりたい」と手をあげる産地が多かったという。
最終的に全国の11の産地が参加することになったが、赤瀬氏は産地を飛び回って参加者と熱い対話を続け、本気を引き出すために膝を突き合わせて語り明かした。「どれだけ本気でコラボ相手とぶつかれるかが成否を決めると思っています。参加者の本気を引き出すにはこちらも本音でないと。」と赤瀬氏。お互いに遠慮してしまうと、できあがったものに満足できないし、自信をもってお客様に売れるものにならないという。
この産地間コラボ事業は、有田焼創業400年を迎える2016年に向け、佐賀県が全国の伝統的工芸品産地に先駆けて、その活性化を目指すことを目指している。1年目の2014年を振り返って、「ものづくり事業の成果品を展示した会場に訪れた皆さんに、もっとダメ出ししてもらいたかった。伝統工芸士が本領を発揮するのはそこから」と赤瀬氏。これまで培ってきたものをいったん壊し、新しいものを作っていかなければ、時代に取り残されてしまう。しかし、自らの産地の中、一人でやっていても地元の人から馬鹿にされてしまうのがオチだ。だから、「産地間コラボで常識を破る」と赤瀬氏は訴える。
2年目以降は地元の若手デザイナーとも組んで商品化を目指していく構想だという。
「伝統工芸は分業を極める世界だから、職人の技がどんなに優れていても市場性と乖離してしまうことがあります。デザインもパソコンの前で考えてできるものではなく、実際現場に足を運ばないとできません。両者がしっかりと組むことでユーザーに求められるもの、売れるものを作っていきたい。そういう事例を有田から全国に発信していきたいですね」(赤瀬氏)
さらに赤瀬氏は、「伝統工芸を中心としたまちづくり」を見据える。だから、人的交流事業の参加者には、「窯業ビジネス全体をデザインするようなセンスをもってほしい」と赤瀬氏。しかし、いまはまだ「有田の人たちの産地に対する意識が低い」と指摘する。個々の窯元を見ればチャレンジ精神旺盛なのに、伝統工芸のまちとしての共通ビジョンがないために「面」としての魅力につながっていかないという。
他産地との交流がはじまって、改めて"日本を代表する伝統工芸の産地"ということを認識し、地元の若手職人の中にも「有田に生まれてよかった」という熱い思いが湧き上がりつつある。その気持ちから、次の時代のものづくりが生まれてくるのだろう。産地間コラボ事業の今後の展開が楽しみだ。