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次の400年へ。パリに咲き初める「ARITA」の華。
グローバルに活躍する工業デザイナー奥山清行氏をプロデューサーに迎え、産地の8事業者とともに、世界に向けた有田焼のリブランディングを目指す“ARITA 400project”が本格始動。2014年9月にパリで開催された国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」でのARITA初出展とこれからの展望についてリポートする。
出展は「リブランディング」の第一歩
フランスのパリ北部、シャルル・ドゴール空港に近いパリ・ノール・ヴィルパントで開催される国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」。世界中の約3000社の家具、装飾品、テーブルウェアなどが並び、デザインのトレンドが渦巻くなか、大きな商談が次々と飛び交う―いわばインテリアデザインの「総本山」といえるショーだ。2014年9月、この25万平方メートルを超える広大な会場のなかでも、とくに世界中から技術を持った人々が集うHall7ギャラリーに、「ARITA(アリタ)」が初登場した。モノトーンを基調としたブースに並ぶのは、佐賀県内8社の窯元・商社の約100点の品々。有田焼に400年間受け継がれてきたモノづくりのDNAをふたたび呼び起こし、ヨーロッパそして世界へと、トレンドとニーズに則した有田焼を売り込む「リブランディング」プロジェクト「ARITA 400project」が対外的にスタートした。
「メゾン・エ・オブジェ」初出展のリミットは、1年
プロジェクトは昨年10月、奥山清行氏(KEN OKUYAMA DESIGN)をプロデューサーに迎えたことから始まる。
奥山氏は自動車・インテリアプロダクト・眼鏡などを、企画開発から販売までを一貫して自社ブランドとして行い、その経験をシェアする手法で著名な工業デザイナーだ。今回の出展を奥山氏は「どれだけ面白い『ネタ』を提供して有田焼が注目されるか」が成功の鍵、と考える。「ショーの一員として、これからの100年、これからの400年を見据えた新しいコンセプト、あるいはこれまでの窯業として育まれた歴史と伝統や、食器として醸成された食文化を、これからの暮らしにどのように展開していくか、という『ストーリー』を提案することが極めて重要だ」。12月には出展に参加する窯元・企業が集まり研究会を立ち上げた。
「東インド会社」の機能を復活し、商流を確立する
研究会の立ち上げ以降、窯元・企業へのヒアリングやミーテイング、2014年6月に実を結んだ主催者の佐賀県への表敬訪問などを含め、「メゾン・エ・オブジェ」初出展に向け奥山氏は佐賀へ訪問した。「今年は時間ぎりぎりなので、まずは『情報発信』。だがこれにも限界がある。ある程度のあるモノを僕らでプロデュースする、というよりも、コーディネイトでもっていくしかない」としながらも、目的はあくまでも「海外に出て商品を売り、売上をアップすること」。奥山氏が考える全体戦略のなかで、流通の「モノが売れる」仕組みを確立させることは重要な目標だ。「ブームにおける商流をきちんと海外に対して確立するには、マーケットの情報から、『この大きさで作ってくれたら、いくつ売る』というコミットメントがちゃんとできている、いわば昔の『東インド会社の機能』を現代に復活させたい」とする。現在の輸出額を現在の5000万円から、10倍、100倍に増やしていこうとするためには、長期にわたるビジネススケールの拡大が必要だ。「(初出展後の)9月以降は、売る側に(商品の企画立案の)最初の段階から入ってもらう予定」なのも、この大きなビジネスに向けた「種まき」のひとつだ。
「ARITA」確立へのイノベーション(提言)
一方、その商品を生産する有田側の商品づくりについて、奥山氏はまず、磁器という商材を「微妙な立ち位置」だと考えた。「プラスチックと陶器に挟まれて、工業製品だけど、アートピースみたいな一品制作の両面がある。極端な見方をすれば中途半端で、変なコンプレックスを持っているところがある。でも、磁器でしかできないことをもう一度見直してみたい。僕ら、ご飯を食べるときにプラスチックの器じゃ食べないし、磁器は絶対なくならないものだから」。
その有田焼の商品づくりには、3つの方向性・イノベーションがあると考えている。
まず第1に「量産技術に使えるものを精査し、工業製品としての新しい21世紀の磁器を作る」こと。「今まで磁器の伝統的なつくり方、こだわり過ぎていたところがある。お客さまが見えないところに手間をかけすぎていたところがある。手間を省けるところはもっと省いて、今だからこそできるグラフィックとか、型の作り方一緒にじっくりと煮詰めていきたい」。一方、第2としては、モダンアートにも通じる「アートピース」としての磁器、究極の「アートとしての磁器」をつくることを挙げる。「最高レベルのフラッグシップって何だろうか。僕自身、そこをもう一度見つめてみたい。僕自身、モダンアートとしての磁器、みたいなものにすごく興味がある」。さらに第3としては「刺激」を受けること。実力・名声ともにある人たちを巻き込んで、コラボレーションした企画を打ち出すことで話題性と、様々な感性を持つクリエーターからの刺激を受けてほしい。
これからの100年、これから400年に向けて
3年間に及ぶ「メゾン・エ・オブジェ」出展プロジェクトについて、奥山氏が2017年までに設定した海外売り上げの目標は2億円。「3年計画を、かなり綿密に立てます。数字を上げるのが目標なので、『情報発信しました』『目立ちました』で帰って来て、『なんだ経費だけ出ちゃったよね』というのは絶対に嫌だ」と語る。参加した窯元・商社にも「ご自身の目で、肌で『ショー』というものを感じていただいたと思っているが、恋愛に例えればまた『デートを申し込んだ』段階。どれだけ投資できるかの差は各社あると思うが、この3年間の後、代理店や店舗を作りたいという会社を探すのか、あるいは代理店を通じて海外と取引するのかを見極め、継続的に海外販路を行う仕組みづくりを考えてほしい」と提言。商品についても、「今回の出展は、テストマーケティングとしてとらえ、得たトレンドや情報を商品にフィードバックし、次回は『リファイン』した商品を出展したい」としている。これからの100年、これからの400年を見据えたブランディングプロジェクト「ARITA 400project」が、どのような花を魅せ、実を結ぶのか―。今後のリポートに期待いただきたい。